重く鈍い音が耳に入る。それとともに、足元から振動音が伝わってくる

少年は、少しの間閉じていた目を開いた。色彩に変化は無い。目を閉じていた時間は五秒にも満たなかったため、瞳が暗闇に慣れなかったからだ

彼の視界には、おさげにした金色の髪とストレートに下ろしたオレンジ色の髪を持った、二人の少女の姿が映っていた

金のおさげの少女は、何か苛立ちを抑えるかのように軽く足踏みをしている

一方オレンジの髪の少女はというと、顔を少し下げ、何かを考えているように見えた。どんな表情をしているのか、二人とも後姿を向けていたのでそこまでは分からなかったが

と、音が少し大きくなったかと思うとすぐに振動が少し大きく伝わってきた

扉が開く音がし、目の前に新たな通路が出来た。どうやら最上階に着いたらしい

 彼らは、ゆっくりとエレベータを降りる。すると、金のおさげの少女が待ってましたと言わんばかりに口を開いた

「あー、かったるいエレベーターだこと!しかし、今にも止まりそうだったのによく動いたもんだ」

「大昔に作られてたって話なんだけどね……当時の人がこんな高度な文明を持ってるはずがないんだけど……」

 顎元に手を当て、オレンジの髪の少女が少し考え込む

「ま、そんなことどうだっていいんだけどな。……ついにだ、ついにここまで来たんだ。待ってろよ……ヤマネコッ!」

 そうして、金の髪の少女――キッド――は高笑いを始める。その笑いに含まれている感情。それは怒りと憎悪、二つの感情しか感じ取れない

「……セルジュ?どうしたの、ぼーっとして」
 
もう一人の少女――レナ――に名前を呼ばれて、彼――セルジュ――は思考の海から帰還した

「あぁ、ごめん。ちょっと考え事しててさ」

 レナに対してそう告げる。すると、キッドがやれやれ。と言ったような表情をし、

「おいおい、大丈夫かセルジュ?まさかここまで来て今更ビビってんじゃないだろうなぁ?」

 と、嘲笑づいた笑みを浮かべて話しかけてきた

「……まさか。こんな敵陣不覚まで潜り込んで来て、今更ビビるも何もないよ」

「ま、ならいんだけどな。さて、それじゃ行こうぜセルジュ、レナ。今日こそあの野郎をぶっ飛ばしてやる!」





「おいおいおい、しっかし……急にモンスターの数が多くなったなっと!」

 キッドが手に持ったダガーで、眼前へ急降下してきたコウモリを斬りつける

 それと同時、道をふさぐように立っていた人型機械に、セルジュはスワローで斬りつけた

「ま、大方さっきの水晶が警報装置だったんだろうね。部外者が作動させたときに反応する奴か。さっき調べた六亡星のあたりがなんか光ってるし」

「はん!さすがは敵の懐ってわけだ。今まで進んできたどこよりも厳重に警戒されてるぜ。で、どうするよ?」

「どうって言われてもね……このままじゃ逆にこっちがヘバっちゃうし。さっきの六亡星の辺りまで最短で突っ切ってくしか無いと思う……レナ、頼むよ」

 応戦しながら、背後にいるレナにそう伝える

「そうだろうと思って、もう準備してあったわ……よっ!」

 直後、レナは手を前方にかざした。するとどこから現れたのか、そこに拳塊大の水球ができる。そして手から高圧の水が噴射された

水といっても、その破壊力は馬鹿に出来ない。エレメントという自然の力により水を凝縮し、それを発射することによって津波と同じくらいの力を込めた水力が発生するからだ

 眼前に山ほどいたマシンナリーやナイトフライヤが、その水力の前にことごとく破壊・倒されていく

「おしっ、今だっ!」

 駆け出すセルジュ、それを追う二人。六亡星の魔方陣についた瞬間、その変化はすぐに起こった

一瞬にして体という物体が分解される。そして高速に、意識は上へと上がっていく

建物を突き抜け、雲を突き抜ける。実際に目で見ているわけではないが、感覚で感じ取っていた

 突然その感覚も終わりを告げる。体が元に戻り、視線の先には大きな扉があった

「ねぇ、今私達の体……透き通ってなかった?」

 今起きた未知の体験に、レナが戸惑いの表情をしていた

「すっげぇー!ここ外か?空に浮いてるな、ここ。しっかし、昔の人はまたど偉いもん作ったんだな」

 一方のキッドは、興味津々驚き少し。すぐに表情は元に戻ったが、好奇心旺盛な子供のようにあたりをキョロキョロと見回している

セルジュは目の前の二人のギャップを目にし、口元が緩みそうになるのを堪える

ドクン

瞬間、鼓動が一段と激しくなった

ドクン、ドクン

 ……なんだ?

ドクン、ドクン、ドクン

さらに鼓動は大きくなる

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

心臓の音が、こんなにも大きい

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

否。自分自身が心臓になったようで

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

心臓の脈打つ音しか聞こえない

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

「っーーーーーーーーーーーー」

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

叫び声をあげようとする。しかし、出るものは声にならない叫びばかり

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

「セルジュッ!?」

 はっ、と。セルジュの意識は元に戻った

「ちょっとセルジュ、大丈夫?」

「あ、……レナ」

「レナ、じゃないでしょ!?いきなり顔が真っ青になって、膝ついて震えだして……さっきのワープが原因かな?」

 目の前にレナの心配そうな顔がある。全身がダルい。見れば自分の体は四つんばいになって震えていた。汗が流れ落ち、床に黒いシミを作っていた

「おいおい、大丈夫かセルジュ?まさかヤマネコの野郎、もう仕掛けてきやがったっていうのか」

 ギリ。と歯に力を入れる

「いや……ごめん、ちょっと立ち眩みがしただけだ」

 足に力を込め、立ち上がる。目の前でレナが心配そうにしているが、ここで急に気分が悪くなったなんていえる状況でもない

「……大丈夫かセルジュ?」

「あぁ、大丈夫だって。大体、今から戦うのに倒れてなんかいられないだろ?」

 ふ、と丹田に力を込めて立ち上がる。一度立ち上がってしまえば、先ほどのダルさが嘘のようになくなっていった。今の異常な鼓動も聞こえてこない

「本当に大丈夫かよ?戦闘中にいきなり倒れられても困るぞ」

「いや、もう大丈夫。心配かけたね、ごめん」

 実質、体の不調はもう無い。そう答えると、キッドは怪訝な表情をしながらもうなづいた

「……わかった。それじゃ、準備はいいな?」

確認を取り、彼女はその目の前の扉を開けた

瞬間、意識が断片化した




















目の前には異質な光景が広がっている

手に持つのは血まみれな短剣。服に飛び散った返り血。血を流して倒れているキッド。それを脇で呆然と見ているレナ

そして何より異常なのは


















ナゼ、オレガメノマエニイル?




















刹那、そこで行われた光景に、俺は目を見開いた

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

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