無我夢中だった。そして、必死だった





始まりは些細なきっかけ。お祭りで、一人の少年と少女がぶつかったこと

会話を交わし、遊び、いつしかお互いに惹かれていく

だがそんな中で起きた、常識では考えられないこと。時間転移……タイムスリップ

少年たちは、過去へ下り星の行く末を見る

そして未来へと上り、死を待つばかりとなった星を見た

彼らは決意する。滅びの時を回避することを

破壊の化身『ラヴォス』。遥か昔にこの星に飛来し、かつて栄えた魔法文明を壊滅させた

そして、少年たち――クロノたちは今、ラヴォスと対峙しているのであった





手に持った刀を強く握り締める

そして思い切り地面を蹴り、跳んだ。目指すは相手の右腕だ

 愛刀『虹』に、自身の全体重をのせる。そしてそれとともに叫んだ

「くらえぇっ!」

 刀が振り下ろされる。全身の力を使って攻撃するそれは、『全力斬り』といわれる。手元には確かな感触。相手の右腕を切り落としたのだ

呻き声をあげる。低く、そして高く。その声質はこの星にいる生物のそれとは明らかに異なっていた

 刀を右手に持ち替え、着地する。そして振り向いた

「!!!」

 目の前には拳。それもかなり巨大な、だ

 当たったら顔の骨が砕けるな……

戦闘の緊迫下の中、そんな冷静な事を考えられるようになったのはいつの頃からだったろうか?

既に避けることは不可能であった。距離はまだ少しあるものの、超高速で動くその拳は、すぐに自分の顔に当たるであろう

迫り来る恐怖感から目を閉じる。と、それとともに目の前で大きな爆発音が響いた

 次いで、火傷しそうなほど暑い蒸気が顔にかかる。思わず顔を背けた

「あちちちちち!」

 顔を手で押さえていると、凛とする声が聞こえてきた

「ちょっとクロノ、助けてあげたんだから礼くらい言いなさいよ!」

そして別な声も聞こえる。こちらは高く、少し幼さが残る感じで

「まぁまぁルッカ、落ち着いて………大丈夫だった、クロノ?」

自分の名前を呼んだ少女たちへと目を向ける

眼鏡をかけた聡明そうな……実際にガルディア王国一の頭脳を誇るとの噂が高い、幼馴染の少女、ルッカ

ポニーテールであどけなさを残し、自分がこの旅に出るキッカケを作ってくれた……そして、何よりも大切な少女、マール

 少年――クロノは顔から手を離し、彼女たちに喋る

「大丈夫、直前で直撃は免れたから。ありがとマール。ルッカもね」

 先ほどの攻撃は彼女ら二人が連携技として得意とする、『反作用ボム3だ』

マールの先天属性である『氷』とルッカの先天属性である『火』。この二つの魔法力を最大限に引き出し、融合させ、攻撃する。その威力はかなりのものだ

 ちなみに氷と火で反応するわけだから、その凄まじい熱により、一瞬にして氷は昇華し気体となりその効果で爆発する。それによって周囲にも熱さが伝わっていた

「そっかぁ、よかった!」

 ちょっとした笑顔を見せるマール

 ……可愛い

 こんなことを思うのは何回目だろうか。もう数え切れないくらい考えてきた気がする

「何かついでって感じがするわね、その言い方……まったく、もうちょっと遅かったら顔が潰れてたのよ。相変わらずなんだから」

 そんなことを考えていたため、いきなり声をかけられたときは少し動揺した。内心を悟られぬよう、笑顔を見せる

マールはそんな心の動揺に気付かず笑顔を返してくれるが、ルッカはなにやらニヤニヤした表情を見せる

 ……こんなとき幼馴染は辛いな……

  なにしろ長い付き合いだ。自分が何を考えているのかがすぐ悟られてしまうのが痛い

「どけ」

 不意にそんな声が聞こえてくる。声の主を見てみれば、そこにはかつての敵であった魔王・ジャキが、魔法を詠唱し終えるところであった

魔王を中心に、強大な魔力が集まっていく。それは全てを包み込む闇のようだ

クロノたちはその場をすぐさま離れる。それと同時に、ラヴォスを中心に漆黒の闇が包み込んだ

 闇属性最強魔法『ダークマター』。一度それに飲み込まれると、希望を失い絶望を得た後にその体は崩壊を待つばかりになるという恐ろしい技だ

「馬鹿が!戦いの最中にじゃれあうとは……また死にたいのか?」

 一度こちらへ振り向きそう述べると、再びラヴォスへと視線を戻した

「ひっど〜い、前から思ってたけど、その口の利き方直しなさいよっ!」

「まぁまぁ……ジャキだって心配してくれてるんだよ。口が悪いところは大目に見てあげないと」

 話すのはマール。クロノはそれをなだめるように、そう言った

魔王の放ったダークマターがラヴォスの左腕を粉砕する。これで残るは本体である胴体のみとなる

だが、自己回復機能を持っているラヴォスは時間がたつと体が修復されてしまうことが分かっていた

 その前に……ケリをつけてやる

思い、そして次の言葉を口にする

「エイラ、ロボ、カエル!一斉攻撃だ!!」

その言葉とともに、一人の女性と、一匹の巨大なカエルと、一体のロボットが突撃した

先頭はエイラと呼ばれた女性。原始の時代にて恐竜人たちと自らの拳で戦い抜いた彼女は、剛拳にまで達した拳をラヴォスへと叩き込んだ

大きな破砕音とともに、機械の体に穴が空く。苦しそうな声をあげた

続くはロボという名前どおり、一体のロボットが手を振り上げて向かっていく

滅びの未来で作られた彼は、ロボットという立場にありながら、心を持った唯一のものだった

肘の稼動部から蒸気が出、瞬間、腕が超高速で連打されていく。ロボの必殺技『マシンガンパンチだ』

その後ろ、体と同じくらいの丈の長さを持つ剣を持ち、カエルは身構えていた

持つ剣は、聖剣グランドリオン。かつての英雄サイラスが所持した伝説の聖剣であり、それは古代魔法王国、ジールにて作られた武器である

そして、グランドリオンの初期の目的はかつてジールにて研究されていた『ラヴォス』を制御すること

そんな思いを知ってか知らずか、カエルはラヴォスに切りかかる

それは、マシンガンパンチと同時

確かな手ごたえとともに、ラヴォスは悲鳴をあげた

クロノはマールとルッカへと視線を送り、頷く

二人はアイコンタクトでそれを理解し、すぐさまラヴォスを中心とした三角形を作り出した

 火を司どる精霊よ、我に力を

ルッカが、念じる

 水を司る精霊よ、我に力を

マールが、念じる

 天地を司る精霊よ、我に力を

クロノが、念じる

 三人の想いは一つとなり、増幅し、ラヴォスへと降り注ぐ

「「「ミックスデルタ!!!」」」

 叫ぶのと同時。天地が震える轟音とともに、ラヴォスに巨大なエネルギーの塊が降り注いだ

生命の灯火が費えるかのように、ラヴォスの断末魔が響き渡る

 そしてそれは、強大な力に押しつぶされるかのように消滅した

「ふぅ……倒した……かな?」

 マールは安堵の表情を浮かべる。だが、

「いや……まだだ、まだ死んでいない!」

 クロノはそう叫ぶ

気は少しだけ弱まったが、まだそこに存在することに彼は気付いていた

 むしろその気は弱まるどころか、逆に強さを増してきていた

「気をつけろ、来るぞ!」

 魔王がそう叫ぶと同時、目の前の空間がグニャリと歪む

 歪みは酷さをましていき、そして、クロノは見覚えのある景色を目にした

「ここは……リーネ広場!?」

 間違いなかった。少し遠くに見えるゴンザレスも、弁当を楽しみに待つ老人も、一気飲みに執念を燃やす筋肉質な男も

 そして国の象徴ともいえる『鐘』が、目の前に出現していた

「でも……何かおかしくないか?」

 カエルがそう疑問を口に出す

そう、それは何か不自然であった。実際に目の前に見えているけれども、実際にはない、何かおかしな感覚

そしてまた突然場面が移り変わる

それはクロノ達の記憶にある場所。中世「魔王城」・現代「リーネ広場」・古代「魔神器」・原始「森」

おそらくラヴォスの覚えている風景だろうか?滅びた未来がないのはこの時代がそこまで辿りついていないからだろう

そしてその空間に、突如として浮かび上がる影が三つ

 中央に宇宙服を着たような、人型のロボットが一つ。その両脇にビットのような形をしたものが二つ。それぞれ並んでいた

「本体は……あの人型ロボットかな」

 問うクロノ。それにカエルが答えた

「おそらく……な。脇の二つは補助装置か何かだろう」

「ふん……関係ない。全て破壊すればいい……それだけだ!」

 そう言い放つと、魔王は再びダークマターを放った。ロボット……ラヴォスを中心に、漆黒の闇が再びその形を広げる

 が、しかし。それはラヴォスを包み込む前に、突如として消え去ってしまった

「……ちっ、異空間に吸収されたか」

「異空間……?」

 耳慣れない言葉にマールは首を傾げる

「ほら、マール。ここは今、時間軸を高速に飛び越えているのよ。その証拠にさっきから場面が転換しているでしょ?
 ジャキの魔法は特に負のエネルギーが強いから、空間内に現れる憎悪や怨念……みたいなのに吸収されたと思うの」

 ルッカはそう話しながら考える。魔王の魔法は全て闇属性であり、おそらくこの戦闘ではもう魔法は使えないだろう。と

「だったら……直接攻撃でいくか。カエル、ロボ、行くよ!」

 クロノはそう叫ぶと、中心のラヴォスへと正面から飛びかかる。カエルは左、ロボは右から、ロボットを中心に交わるように疾走する

「「「トリプルアタック!!!」」」

 刹那。三本の閃光を残しながら切りかかる。そして手に残る確かな手応え

「攻撃の手を休めるな!一気に畳み掛けるんだ!」

 その声とともに、皆が一斉に攻撃に移った










「はぁ……はぁ……はぁ……」

 汗が滴り落ちる。それは足元に落ちたかと思うと、すぅっ。っとまるで元々なかったかのように消え去った

状況は苦戦。寧ろこちらが徐々に不利になりつつあった

攻撃しても攻撃しても、直に側のビットに回復されてしまう。回復するビットを破壊しても、ものの数分としないうちに復活してしまう

その上、もう片方のビットはまるっきり刃が立たない

 こちらの体力は削れていくばかり。疲労が溜まって動きが鈍くなっているのが簡単に分かった

「……一撃で倒せれば、直に決着は付くのだろうけど……」

 呟くようにルッカが言う。そして、その言葉には不安が見え隠れしていた

 相手を一撃で倒せる可能性のある技は、確かにある

「ミックスデルタ……もう一度いけるか?」

 マールとルッカに問う。我ながら意地の悪い質問だ、とクロノは思った。決まっている、返ってくる言葉はきっと……

「……うんっ、いけるよ、クロノッ!」

「ま、他に方法がないからね。そうくるだろうと思ってたわ」

 否定の言葉は含まれない。肯定

苦笑する。考えることは皆同じなんだな、と

ミックスデルタは最強の魔法である。だが、最強であるが故に、その魔力の消耗は恐ろしいほどに削らされるのだ

絶大なる攻撃力を持つ反面、魔力の大半を使う。失った魔力はエリクサーですら、回復させるには至らなかった

下手に連発すると、自分の体がその魔力に耐え切れず崩壊を始める。ということを、昔スペッキオに聞かされていた

 でも……な

やはり、この技に頼るしか方法は無かった。既に時間の猶予もそれほど残されていない

 浮かび上がる不安を心に閉じ込める。今不安になったって仕方がない。これは効くんだ。そう、絶対に……

「マール、ルッカ。いくよ」

 そう言うと、彼らはラヴォスを中心に再度三角形を作る。そして再び、魔力の解放を始めた

「く……」

 クロノの額に汗が浮かぶ。気を抜いたらその場に倒れこんで意識を失ってしまうような、そんな感覚に襲われ始めた

だが、歯を食いしばり、さらに力を込める。体全体から全ての魔力を放出する。そんな意識を持ちながら、念じる

 三人の魔力の塊は、先ほど食らわせたミックスデルタよりも、さらに大きく、強くなっていた

「いっけぇぇぇぇ!!!」

 叫ぶ。そして意識を一気にラヴォスへ

巨大な魔力の塊は、先ほどとは比べ物にならないくらいの力を誇りながら、その中心のラヴォスへと降り注いだ

そのエネルギーの量と衝撃に、時間軸が大きな揺れを引き起こす

クロノ達三人はその場に跪く。そして正面を見据える

 そこに、ラヴォスの姿は存在していなかった

「倒した……のか?」

 少しの間、信じられないという表情でそこを見る

中央にいたラヴォスは消滅し、脇にあったビットはその活動を停止したのか、地に落ちて転がっていた

 その現実を目にし、クロノ達の表情に笑顔が灯る

「やった!やったよ、クロノ!私たち、ラヴォスを倒したんだよね!?もうこれで地球が滅びることは無いんだよね!?」

 そう言い、マールがクロノの元へ駆けて来る。返す顔はもちろん笑顔で

「……あぁ!」

 そう、元気よく頷いた

 そして彼らは歓喜に溢れた。……いや、例外が二人存在した

「……おい」

 カエルが話しかける。その相手は……魔王、ジャキ

「……ほう、お前もやはり感じるか……」

 魔王は口元に笑みを浮かべて―唇を歪ませる程度だが―そう答えた

 カエルはクロノに向き直り、告げる

「油断するなクロノ!まだ……まだラヴォスは死んではいない!」

「え?」















刹那















転がっていたはずのビットがふいに宙に浮き、光線を発射した

鋭く高音の光線は、真っ直ぐに、彼の背中を目掛けた

その気配にクロノは素早く反応し、振り向く

だが、その動作は失敗だった。横に転がるなり身を捻るなりの動作をしていればそれはギリギリの所で避けられたかもしれないが、

振り向くという余分な動作がその時間を掻き消した

 ……しまった!

 目を閉じ、無駄だと分かっていながらも、来るはずの衝撃に身を固める

「バスン!」

 鈍くて低い音がする。だが、いくら待っても痛みは襲ってこない

少し目を開け……カッと見開いた

目の前にいるのは、こちらに背を向け、胸から煙を出している、少女

彼女はゆっくりと……地へ倒れ落ちた

「マァァァァァァァァァァァァァァァァァァァル!」
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